2016年11月24日
この説明はGlyphs 2.4 (939)を使用して記載したものです。他のバージョンでは同様の結果にならない可能性があります。また、記載している設定は出力したフォントがCS6に付属する小塚フォントと同様の形式でアプリケーションのフォントメニューに表示されることを目指して試した結果です。他にもっと適した設定があるかもしれません。あらかじめこれらのことを了承してください。各自の判断で有効と思う場合は自己責任で参考にしてください。
この説明では例として
Myテストかな L
Myテストかな R
Myテストかな M
Myテストかな B
Myテストかな EB
Myテストかな H
という名前で6つのフォントを作成します。
この説明では1つのGlyphsファイルの中に6つのフォントを作成しています。このフォントは文字数が少ないので不都合は感じませんでしたが、漢字を含むフォントなど文字数が多い場合は特定の操作を行った時の処理に若干時間がかかることがあるので、書体ごと別々のGlyphsファイルで作成したほうが良いかもしれません。最初は1つのGlyphsファイルで作成して後から別々のファイルに分けることもできます。状況に応じて判断してください。
この説明では基本的な設定とフォントメニューに関連する設定を行っています。ステムやアライメントゾーンなどフォント名に関係ない箇所はデフォルトの値から変更していません。必要なら適切な値を設定してください。
「フォント」タブ
フォント情報の「フォント」タブに「ROS」と「localizedFamilyName」を追加します。この説明では過去のメモに合わせて「ROS」を「Adobe-Japan1-3」を設定しています。「Adobe-Identity-0」の場合は「glyphOrder」の追加も忘れずに追加してください。
「マスター」タブ
フォント情報の「マスター」タブの設定はフォントメニューの表示に直接関係ありませんが参考までに掲載します。この説明で作成しているフォントはマスターとして「Light」と「Bold」の2つを作成し、その他は自動生成しています。
フォント情報の「マスター」タブ:Light
フォント情報の「マスター」タブ:Bold
「インスタンス」タブ
フォント情報の「インスタンス」タブにある各インスタンスは以下のように設定しています。
「インスタンス」タブ:L
「インスタンス」タブ:R
「インスタンス」タブ:M
「インスタンス」タブ:B
「インスタンス」タブ:EB
「インスタンス」タブ:H
1)各インスタンスのスタイル名には「L」「R」「M」「B」「EB」「H」といった短縮した名前を入れています。
2)各インスタンスの「ウエイト」ポップアップメニューは各スタイル名に合わせて選択しています。
3)各インスタンスの「グリフ幅」は「Medium (normal)」を 選択しています。
4)各インスタンスの補間パラメータは自動生成するウエイトのための値なので作成するフォントによって変わります。自動生成を使用するなら適切な値を設定、使用しないなら無視してください。
5)「B」「EB」「H」はスタイルリンクの「ボールド」チェックマークをONにしています。
6)各インスタンスのカスタムパラメータには「localizedStyleName」と「postscriptFontName」を追加しています。
localizedStyleNameについて
「localizedFamilyName」を追加している場合、同時に「localizedStyleName」も追加しないとFontBookの表示が以下のようになり、正しく表示されませんでした。この問題の対処として追加しています。
※「localizedStyleName」を追加する場合は「localizedFamilyName」の追加を忘れないでください。「localizedStyleName」だけを追加してフォントを出力するとGlyphs 2.4 (939)が異常終了することがありました。
postscriptFontNameについて
「postscriptFontName」はGlyphsが自動生成したPostScriptフォント名をそのまま使用せず、別の名前を設定するために追加しています。Glyphsが自動生成したPostScriptフォント名のままだと古いシステム環境に対する互換の面で不安がありました。そのため自動生成された名前ではなく別の名前を設定しています。Mac OS9時代の古い環境ではPostScriptフォント名が「-H」で終わるフォントが認識されない問題があったため念のため変更しています。
以上で設定は終了です。
設定が終わったらフォントを出力します。この例では以下の6つのフォントファイルが出力されます。
出力したフォントをシステムにインストールしていくつかのアプリケーションで確認します。
例:Office Word for Mac 2011のフォントメニュー
Office Word for Mac 2011ではフォントメニューに「Myテストかな B」が表示されません。これはWordの仕様によるものです。「Myテストかな R」を選択したうえでスタイルの「B」アイコンを押してボールドスタイルを指定すれば「Myテストかな B」に切り替わります。この動作はCS6に付属する小塚フォントも同じです。
※Windows版のWord 2010および2013では「Myテストかな B」もメニューに表示されることを確認しています。また、スタイルをボールドに指定した時の動作もOffice Word for Mac 2011と異なることを確認しています。可能なら異なるプラットフォームや異なるバージョンのアプリケーションでフォントの動作を確認したほうが良いと思います。
出力したフォントはOSに付属のヒラギノフォントと違って「Myテストかな」がファミリーとして1つにまとまらず、ばらばらの状態で表示されています。これは出力したフォントの仕様とOffice Word for Mac 2011の仕様よるものです。これ自体は不具合ではありません。この状態はCS6に付属する小塚フォントも同じです。
出力したフォントの中にはGlyphsが必要に応じて「preferredFamilyName」と「preferredSubfamilyName」という名前情報を追加してくれます。「preferredFamilyName」と「preferredSubfamilyName」に対応している最近のアプリケーションならファミリーを1つにまとめて表示してくれるはずです。
例:FontBookのフォント名一覧
例:テキストエディットのフォントパネル
例:Adobe InDesign CS6のフォントメニュー
フルネームについて
この設定で出力したフォントはFontBookにある「フォント情報を表示」の「フルネーム」が「Myテストかな B Bold」のように表示されます。「EB」と「H」も同様に「EB Bold」「H Bold」と表示されます。一方、CS6に付属の小塚フォントでは「小塚ゴシック Pr6N B」と表示され「B」の後ろに「Bold」は付きません。
これは日本語フォント用の「ROS」を設定し、「インスタンス」タブにあるスタイルリンクのボールドをチェックした場合に起こります。ボールドのチェックをOFFにすればこの問題は解決しますが、OFFにすると「Myテストかな B」の動作がCS6に付属する小塚フォントと違ってしまう可能性があるためOFFにしませんでした。
「フルネーム」を修正するためにカスタムパラメータの「Name Table Entry」を使ってネームID=4(full font name)を追加しても結果は変わりませんでした。
この状態でもフォントを使用することはできます。ただし、特定のアプリケーション、特に古いアプリケーションで何らかの問題が発生するかもしれないという不安が残ります。DTL OTMasterやAFDKOに付属するソフトウェアを使用して出力したフォントを直接修正すれば対処は可能ですが、Glyphs上の設定で対処できるのが望ましいと思います。筆者はGlyphs上の設定で「フルネーム」を望み通りの設定にする方法がわかりませんでした。
別の気になった点として、出力したフォントにはMacintosh Roman向けの英語のフルネームがセットされていません。Macintosh Japanese向けの日本語のフルネームはGlyphsによって自動でセットされています。日本語環境で使用する場合は問題ないと思いますが、例えば英語環境で古いアプリケーションを使用したときにフォント名が正しく表示されないなどの問題が発生するかもしれないので、できればセットしておきたい情報です。これについてもカスタムパラメータの「Name Table Entry」を使ってネームID=4(full font name)を追加してみましたが結果は変わらず、解決することができませんでした。
いくつか懸念事項は残ってしまいましたがフォントファミリーの作成に関する説明は以上です。
スタイル名を省略しない場合ついて
インスタンスの「スタイル名」に「Light」「Regular」「Medium」「Bold」「ExtraBold」「Heavy」のような省略しない名前を使いたいことがあるかもしれません。
例えばフォントメニューに現れる名前を以下のようにしたい場合です。
Myテストかな Light
Myテストかな Regular
Myテストかな Medium
Myテストかな Bold
Myテストかな ExtraBold
Myテストかな Heavy
このようなファミリーを作成しようとしたところOffice Word for Mac 2011で以下のような問題が発生しました。
※この問題は日本語フォントを作成した場合の問題であり、英語フォントは対象ではありません。
1)「Myテストかな Regular」だけインストールすると「Myテストかな」と表示されてしまいフォント名の後ろに「Regular」が付かない。
この状態ではメニューに表示される形式が他のウエイトと違ってしまいます。
Wordのフォントメニューに「Myテストかな Regular」と表示するためにはファミリー名に「Myテストかな Regular」を設定しなければなりません。
この説明では「フォント」タブの「ファミリー名」に「Myテストかな Regular」を設定すると他のウエイトにも影響してしまうので、「Regular」インスタンスに特別な設定を追加するか、もしくは別のGlyphsファイルに作成してファミリー名に「Myテストかな Regular」を設定する方法が考えられます。
2)フォントメニュー表示で「Myテストかな Bold」が「Myテストかな」と表示されてしまいフォント名の後ろに「Bold」が付かない。
この状態ではメニューに表示される形式が他のウエイトと違ってしまいます。
これはスタイルリンクの「ボールド」がONの場合に起こります。OFFにするとフォント名の問題は解決しますが、出力したフォントはレギュラー属性になってしまうため、Wordでスタイルを指定したときの動作が変わってしまうかもしれません。
ONのまま解決するには「Regular」と同様に「Bold」インスタンスに特別な設定を追加するか、もしくは別のGlyphsファイルに作成してファミリー名に「Myテストかな Bold」を設定する方法が考えられます。
3)フォントメニュー表示で「Myテストかな Regular」と「Myテストかな Bold」が1つにまとまって階層表示され、残りのフォントはばらばらに表示される。
この問題は1と2の問題を解決すれば同時に解決するはずです。
上の考えのもとにカスタムパラメータに設定を追加したり、それぞれ別々のGlyphsファイルでするなどの方法を試しましたが思い通りの結果にならず解決することができませんでした。
インスタンスのスタイル名に「Regular」または「Bold」を使用している場合、出力したフォントに日本語のフルネーム情報がセットされず、「Name Table Entry」パラメータでネームID=4(full font name)を設定してもフルネームをセットすることができませんでした。
この問題は筆者の知識が不足しているため解決できないだけかもしれませんが、「Light」「Regular」「Medium」「Bold」「ExtraBold」「ExtraBold」を使用すると上記のような問題があり、筆者は問題を解決きなかったためこの説明では省略したスタイル名を使用して説明しています。
更新履歴:
2016年11月24日:公開
> Macintosh Roman向けの英語のフルネーム
返信削除Mac OS 9時代にAdobe Type Managerが最終バージョン近辺で.otfをサポートしたことがありました。OS9はフォントメニュー名にレガシーエンコーディングが使われており、nameテーブルのMacintosh RomanやMacintosh Japaneseは、そのOS9+ATM環境のための過去の遺物です。
OS9以外ではまったく不要ですし、OS9+ATM環境で.otfを使う人ももはやいないはずで、実際に源ノ明朝のnameテーブルにはありません。
monokano様
返信削除コメントありがとうございます。
はじめにMacintosh Japanese向けのname情報についてですが、つい最近までサポートが行われていたMS Office for Mac 2011のWord(OSX 10.10.5上で確認)の場合、フォントの中にMacintosh Japanese向けのname情報が無いとツールバーにある選択中のフォント名が日本語で表示されないという問題を経験しています。古いアプリに対する互換を気にするなら入れておいたほうが良いと思っています。
Macintosh Romanのフルネームついては「無くても問題なさそうだけど、互換のために入れておいたほうが良さそう」程度の認識で、英語の古いアプリで確認することもできなかったので、判断できず懸念事項として記載しました。
コメントをいただいた後でMacintosh Romanのフルネームが含まれていない日本語OTFについて確認してみました。英語表示に切り替えた状態でFontBook(OSX 10.10.5)のフォント情報にあるフルネーム項目を確認したところ、Macintosh Romanのフルネームが含まれない日本語OTFでは英語環境にもかかわらず日本語のフルネームが表示されました。OSにバンドルされている日本語OTFでは言語設定に応じてFontBookのフルネーム項目の内容が英語/日本語に変わります。このような細かな違いを気にするならMacintosh Romanのフルネームも入れておいたほうが良いかもしれません。
貴重な情報をいただきありがとうございました。